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燃料タンクを切開しなければならない理由について

 

 

 

■燃料タンクを切開しなければならない理由とは?

 

 

 

他の資料でも言及していますが、弊社は燃料タンクの仕様により切開・再溶接するケースがあります。
切開が不要なモノについては貴重な燃料タンクを滅多矢鱈に切り刻むような事はしませんが
内部構成や諸々の事情によりやむを得ず切ることがあるのです。

 

 

弊社ではご依頼者様へ燃料タンクの切開について目的や範囲・作業のリスクなどを全て公開し
必ずご了承を頂いた上で切開作業を実施しています。

 

 

今回は「なぜ燃料タンクの切開が必要となってしまうのか?」といった点について解説していきます。
主に切開が必要となるケースは以下となります。

 

 

 

 ★燃料タンクを切開しなければならないケース
 ① 内部の汚れが酷いため一部を切開or穴を開けて洗浄を実施する場合
 ② 内部の機構を取り外す目的で切開する場合
 ③ 内部の機構を作り替える目的で切開する場合
 ④ 過去に施したコーティングを剥離する目的で切開する場合
 ⑤ 内部構造が視認できない構造のため研究目的で切開する場合

 

 

 

 

 

 

 

■燃料タンク内部にフィルターがはいっている場合

 

 

 

弊社のコーティング施工をお受けする際には主に①②③が90%以上を占めています。

 

 

最も件数が多いのが②に該当する
「燃料タンク内部に交換不可能な形で付けられているフィルターを外す」といった作業です。

 

 

もしかしたら、燃料タンクの内側に交換不能のフィルターが付いているという事実は
寝耳に水…という人が多いかもしれません。
絶対に交換できない構造にも関わらずわざわざフィルターを設置する目的としては
「給油時に入ってしまう細かいホコリやゴミを燃料ポンプに極力吸わせたくない」
といった理由が主だと考えられます。
本来、この手の交換を一切考えないフィルターが付いている燃料タンクは
フィルターが汚れたり詰まってしまった場合には
「丸ごと交換が必須」という考え方で作られています。
純正の新品部品が容易く安価に手に入る状況であれば全く問題にはならない訳ですが
多くの旧車で新品部品が枯渇している現代ではそうもいっていられなくなってしまった
というハナシです。

 

 

1960年代までは燃料タンク内部にフィルターの装着例はまだまだ少なかったようです。
理由としては
燃料タンク外部のフューエルライン上に取付けられたフィルターの性能で充分
だと考えられていたから、ではないでしょうか。

 

 

1970~80年代になりますと国産各社では燃料タンク内部フィルターの採用例が多くなってきます。
ちなみにベンツやポルシェなどのドイツ車では古い年式の車両でも
脱着可能な方式のフィルターが早くから採用されています。

 

 

1980~1990年代以降、インタンク式燃料ポンプの形式が主流になると
燃料ポンプの付属品のような形で脱着可能なフィルターが多く採用されるようになっていきます。

 

 

 

下画像はFK10フィガロのセンダユニット一体式のインタンク燃料ポンプです。
センダユニットを再メッキして他車種のポンプを移植した完成品になります。
燃料ポンプ下側(画像右側)に脱着式のフィルターが見えますね。
  

 

 

 

いずれにせよ、内部に入り込んでいるフィルターを外さないままでは
燃料タンクの内部洗浄やコーティング施工については一切語れません。

 

 

実際に燃料タンク内部に付いているフィルターは
簡素なモノが多く目の細かい茶漉しのような形状をしているのが大多数です。
この茶漉し型の燃料フィルターにコーティング剤が付着して硬化しちゃうと
燃料の流れが阻害されてしまいます。
コーティング剤はそもそも金属の表面にガッチリと食い付く性能を有していますが
フィルターの網目にはコーティングは上手く付着はしません。
このフィルターへ中途半端に付着してしまったコーティング剤は
短期間で簡単に剥がれてしまい燃料タンク内を漂って時間をかけて細かく砕かれて粉末状になり
いずれはフィルターから燃料と一緒に吸い込まれていくことになります。
結果として燃料タンク内部からエンジン側へ流れ込んでトラブルを起こします。

 

 

フィルター本体や網の部分が金属製であったとしても
上手く全面にコーティング剤が食い付いてしまったとしたら
逆に燃料の流れを阻害させるような形になるのでコレはコレで大問題となります。

 

 

 

最も危険な点は
「サビが出ている燃料タンク内部の汚れが
 すでにフィルターを通過してフィルター内部からフューエルライン上に溜まっている」

という事です。
これは弊社の経験上、ほぼすべてのサビている燃料タンクに共通して発生している現象です。
つまり
「内部フィルターを完全に外した状態で燃料タンクの洗浄を実施しなければ
燃料タンク内部の汚れは完全に落としたことには絶対にならない」
という事実です。

フィルターを通過した汚れなんて
フューエルラインの反対側からエアブローや高圧洗浄機で洗えばカンタンに落ちる…
とか思いますよね?
コレが実際にはそんな簡単にはいかないのですよ。
フィルターを完全に外してからフューエルラインのパイプ内部を特殊な道具で
汚れを物理的に削るように洗っていかないと取れない程にこびりついているケースが実に多いのです。

 

 

結論として「フィルター除去作業を実施せずにコーティングを実施してしまった燃料タンク」
「汚れが残ったままに各作業を進めている」ということになるので
非常に残念なハナシですが「すでにコーティング施工に失敗している」と断言することができます。
時間の経過と共に「原因不明の燃料系トラブル」が出てくることが予想できます。

 

なお、外してしまった燃料フィルターの代替品として
燃料タンク外部のフューエルライン上に新たに設置することは可能です。
燃料ポンプの圧力によって対応するフィルターが違うので注意が必要です。

 

 

依頼件数が多いうち日産車で代表的な車種では
R30スカイライン・S31系フェアレディZは確実に除去作業を行う必要があります。
(※年式や仕様、部品の製造ロットによりフィルターが無いケースもあるので要現物確認!)

 

 

 

下画像はR30スカイラインの燃料タンク内部フィルターです。
フィルターのメッシュ面に汚れが付いていますので内部にも当然汚れが入り込んでいる、という訳です。
    

 

 

 

このようなフィルターを外さないままコーティング施工してしまう業者さんもいるそうなので
ご依頼の際には確認と注意が必要です。
更に難しい構造の例として、いすず・117クーペに至っては
燃料フィルターの四方を鉄板で覆われた小部屋のような構造物の中に入っているので
天井面を大きく切開をして内部構造を変更する形でフィルターを完全に取り除く必要があります。
この方法でしか100%絶対に燃料タンク内部のフィルターを外すことができません。

 

 

ベテランの整備士といえども多くの車種・メーカーの燃料タンクを分解して内部構造を確認することなど
それほど多く経験できることでは無いと思います。
こういった特徴を持った燃料タンクを積んだクルマが
普通に数多く存在していること自体あまり知られていない事なのかもしれません。
弊社では国産・外車問わず200例を超える車両を
長い年月をかけてコツコツと施工してきた実績がありますので
こういった加工は燃料タンクコーティングをする上で
「普通の事」「当たり前の事」としてやっています。
DIYで燃料タンクコーティングを考えておられる方もいらっしゃるかとは思いますが
無計画に突き進む前に
今一度冷静に燃料タンク内部の点検をしっかりと行い施工の可否を判断するようにしてくださいね。

 

 

 

 

 

 

 

■バッフルプレートが作業の進行を妨げてしまう場合

 

 

 

次に多いケースとして
燃料タンク内部に隔壁が張り巡らされている影響で洗浄作業が上手く出来ない場合です。
いわゆる「バッフルプレート」と呼ばれる壁が燃料タンクの内部には設置されているのですが
これは主に2つの効果を狙って付けられています。

 

 

<バッフルプレート設置の理由:その1>
走行中に左右方向や前後方向に加速度が加わると燃料が全体で偏ってしまい
フューエルポンプへの燃料供給が上手くいかなくなる現象(ガス欠のような症状)を抑える目的です。
傾斜のキツイ場所に車両が留まっている場合にも燃料全体が偏る影響で同様の症状が出やすいため
バッフルプレートやサブタンクを付けることで対策をされている場合があります。
車種によっては密閉した大型サブタンクなどを装備して非常に凝った形状で積極的に燃料を吸わせるようしています。

 

<バッフルプレート設置の理由:その2>
車両が走行と停止を繰り返した場合に燃料全体が揺れることで
「チャポン」とか「ピチャッ」という音がでてしまうことがあります。
また燃料がタンク内部を流れる際の「シャバシャバ音」が出る場合もあります。
こういった音が室内に伝わった場合「不快な音」として聞こえてしまうので
これら音の抑制を目的としてバッフルプレートが設置されるケースがあります。
プレートの設置だけではなく複雑に多くの穴が開けられて対策されているモノも多く見られます。

 

 

 

1970年以前の旧車ではバッフルプレートが一切ついていない車種も勿論ありますが
各メーカー共通で製造年式が新しくなるにつれて
車内環境を居住空間として快適に過ごすことが求められるようになり
積極的に対策が講じられるようになる方向性で
バッフルプレートの枚数も多くなり形状が複雑になっている傾向があります。
1980年代になると過剰に対策を実施した燃料タンクが多くみられますが
1990年代では燃料タンク製造の研究が進んだ影響から
効果的な配置にバッフルプレート置くことで枚数を減らしたシンプルな構造へと変わってきています。

 

 

燃料タンク内部を目視する際に邪魔になる構造のモノが多く
酷い場合には小型カメラでも全く見えない部分が出てしまうこともあります。
弊社ではスナップオン製をはじめとした複数の小型カメラを状況に合わせて使用していますが
これでも燃料タンク内部の全貌を見る事のできないケースも実際には多いのです。

 

 

また、燃料タンク内部の汚れが酷い場合には一部に穴を開けて確実に洗浄作業が実施出来るようにすることもあります。
ここまでキチンと洗浄作業を行わないと取れない汚れがあることを弊社では経験として知っています。
高価なケミカルで何度もしつこく漬け置きするだけでは
経費が嵩むだけでいつまで経っても絶っっっ対に取れないんですよ、本当に!

 

 

時には治具を作って手作業で汚れを削り落としたりすることもあります。
汚れを落とす目的でなんとか拳が入るサイズの穴を開けてから
手を入れてゴシゴシ…という地道な作業をすることもあります。
そこまでしっかりと汚れを落としおかないと
次のケミカルを使ったサビ取り作業がキレイには仕上がりません。
汚れが付着したまま無理に作業を進めてしまうと
結果としてある程度時間が経つとコーティング剤が剥離するという大失敗に繋がってしまうからです。

 

 

 

内部が見えない燃料タンクの例としてホンダ・シビック1200RSのタンクを載せておきます。
バッフルプレートが天井側と底面側から互い違いに立ち上がっているので普通の小型カメラでは奥深い部分が全く見えません。
(自在に進む向きを変えられる医療用胃カメラのようなレベルの機材があれば見えるのですが…)
汚れも酷い状態でフューエルラインのパイプも内部側から詰まっていたこともあり
真っ二つに切開することにしました。
      

画像では見えづらいのですが
燃料タンクの補強材として袋状に閉じられた構造物が多数入っており
その内部の洗浄やコーティングの際にケミカルを確実に流し込むための加工が必要でした。

 

 

 

 

 

 

 

■樹脂やゴム製の部品が燃料タンク内部に組み込まれている場合

 

 

 

上記②③に該当するケースになりますが
燃料タンク内部には「金属以外で作られた部品が入っている」ことがあります。
「燃料を補給して貯蔵する」といった基本的な機能だけではなく
いくつかの機構や構造を内部に入れ込んでいるモノが存在しています。

 

機構としては主に
「揮発した燃料を液化して還流させている」「膨張した揮発ガスの圧力調整」といった内容です。
実はこの機構の構成部品自体が
「ゴムホースを使っている」「樹脂で作られている」という場合が多いのです。

 

他のコーナーでも記載しているハナシになりますが
燃料タンクコーティングに使うコーティング剤は金属(特に鉄)には強力に付着してくれるのですが
樹脂やゴムなどの柔らかい素材には全く張り付かない、といった特性があります。

 

樹脂&ゴムを大きく変形させると1発でペリペリ~っと簡単に剥がれてしまいます。
結果として剥離してしまったコーティング剤はトラブルとなりますので
弊社では樹脂&ゴムで作られた部品は完全に取り除いてから
清掃→サビ取り→コーティングといった流れで作業を進めていきます。
そのためには燃料タンクの一部を切開もしくは全体を大きく切断して
樹脂&ゴム部品の除去作業をしなければなりません。

 

 

下の画像は日産FK10フィガロの燃料タンクを真っ二つに切開したモノです。
ちょ~っと見づらいかもしれませんが天井面側に樹脂製の四角いセパレーター(赤枠)
セパレーターからチャコールキャニスターへ向かうパイプ部分にゴムホース(青枠)が2か所使われています。
     
このままではコーティング作業自体が一切できませんのでまずは樹脂とゴム製品を取り外してしまいます。
代わりに金属製の代替品パイプやセパレーターを製作して取付けてから再度溶接して元に戻していきます。 

 

 

上記のようなケースであれば部分的に作り直しをすることで
外した部品と同じ機能を取り戻せるのですが
樹脂部品を外してしまう事で完全に機能を失ってしまう燃料タンクも極々稀に存在しています。

 

例えば「インタンク式燃料ポンプの固定部分が全て樹脂製」となっている場合です。
某ドイツ車でしたが、コレを外してしまうと純正の燃料ポンプが使えなくなってしまいます。
代替品を作るにしてもかなり難しい形状であり、外付けポンプへの変更もかなり難度と費用がかかるため
弊社でのコーティング施工をお断りした事が過去にありました。
さらに別の某ドイツ車には
かなり大型セパレーターが天井側にトグロを巻くようにグネグネと入っていて
外すことが出来ないので施工不能…なんていう例もありましたね。

 

 

 

 

 

 

 

■燃料タンク切開において「最悪のケース」について

 

 

 

燃料タンクの切開において「最悪のケース」とは?…ズバリ上記④「コーティング失敗のリカバリー」です!
どのようなコーティング剤を使ったにせよ完全にほぼ100%旧被膜を剥がすことが求められます。
そして再度はじめからコーティング施工をやり直ししなければなりませんので
まずは基本的に真っ二つに切開からスタートすることになります。

 

燃料タンクコーティングに使われるケミカルは硬化してしまうと非常に強固なモノが多く
一般的に入手できない劇薬に該当する剥離剤やバーナーで焼き尽くすといった方法でもキレイには剥がれません。
結局はエアツールや各種刃物を含めた完全手作業で細部まで削り取る作業をしていくしか方法が無いのです。
非常に手間と時間がかかるため作業工賃が極めてに高額になってしまいます。

 

そして真っ二つに切開したタンクを慎重に形状を合わせながら再度溶接して漏れ点検。
完了後にようやく燃料タンク内部の洗浄作業を開始…正直なところこの手の作業は気が滅入ります。
弊社には年に1個以上は他社での失敗施工や無理にDIY施工したモノなど
様々な手法で「散華」した燃料タンクが持ち込まれます。
部品単位での金額を考えたら「勉強代」としてはあまりにも高額ですし代償として失うモノが多すぎます。

 

 

雑誌やネット上の動画サイトなどでは安易に
「燃料タンクコーティングは実に簡単な作業ですよ~」といったアピールが散見されます。
大変申し訳ございませんが多くの記事について
「重要な部分がしっかりと出来ていないな」というのが私の正直な感想です。
長年に渡り燃料タンクコーティングをコツコツと続けていますが
専門知識の無い方が無暗に手を出す分野ではないかなぁと思います。

 

 

例えば
サビ取りケミカルだけでカンタンに汚れが落ちるような
「大して汚れちゃいない燃料タンク」であったり
尚且つ
「非常に簡素な構造の燃料タンク」であれば
経験が無い方でも運よく上手く出来上がる可能性も充分にありますが
普通の自動車整備の経験だけでは決して解決できないノウハウが盛り沢山の分野です。
出来る事なら経験豊富なプロの手を頼って頂くのが間違いのない方法かと思います。

 

 

 

ご覧頂きました通り
燃料タンクといっても車種によりかなり構造が違っている事がわかるかと思います。
また作られた国や年代・メーカーごとに設計思想が異なっているために
非常に施工難度の高い構造のモノも多く存在しています。
今回は一部の車種例を出しながら解説をさせて頂きましたが
「随分と面倒な仕事をコツコツとやっているな~」などと感じて頂けますと幸いでございます。
決して工賃が安い分野の仕事ではありませんのでじっくりと検討してみてください。